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植草一秀の「金融変動水先案内」 ―東アジアコロナのゆくえ- - minkabu PRESS

第36回 東アジアコロナのゆくえ

●コロナ対応に失敗した日本

日本のコロナ被害状況は東アジアの中で最悪のグループに入ります。ワースト1、2がフィリピン、インドネシア。日本はワースト3です。順位は人口当たりの死者数によるものです。日本は人口100万人当たりの死者が7.6人です。ベルギー839人、英国635人、仏455人、米国376人と比較すると100分の1、50分の1の水準で、欧米とだけ比較すると「日本モデルの成功」などという詐欺まがいの説明も可能になってしまうのですが、東アジア地域で日本は最悪グループに属するのです。

東アジアの優等生代表は台湾です。台湾の100万人当たり死者は0.3人。実際の死者は7人にとどまっています。日本の場合、通常の要因では説明できない超過死者が多数存在しており、コロナ死者数が過少計上になっている可能性が高いと指摘されています。

台湾は中国と近く、人の往来も極めて多いのですが、見事にコロナを封印しました。台湾政府は昨年末に武漢の異変を察知してWHO(世界保健機関)に警戒を呼びかけました。1月5日には専門家諮問会議を招集し、1月20日には感染対策指揮センターを設置。2月7日には中台間の人の移動の全面的制限に踏み切りました。中国が武漢市を封鎖したのは1月23日です。

日本の安倍首相は武漢封鎖翌日の1月24日に在中国日本大使館公式HPで「安倍晋三内閣総理大臣春節(旧正月)祝辞」と題するビデオメッセージを公表しました。安倍首相は「春節に際して、そしてまた、オリンピック・パラリンピック等の機会を通じて更に多くの中国の皆様が訪日されることを楽しみにしています」と述べたのです。

●東アジアのコロナ被害は軽微

安倍内閣は2月24日に「瀬戸際の2週間」を宣言した下で3月1日には7万人の濃厚接触者を生み出す東京マラソンを強行しました。3月20日には聖火到着式まで遂行したのですが、空に描いた五輪は強風ですべて吹き飛ばされてしまいました。五輪の現実を暗示する式典になったのです。3月24日に東京五輪延期が正式決定されるまで、安倍首相と小池都知事は7月五輪開催強行に突き進んでいたのです。

五輪が念頭にあり、PCR検査が徹底的に抑制されました。日本での感染者に占める死者の比率は5%で欧米と同水準です。コロナの致死率が5%なら、徹底的な行動抑制が必要不可欠になります。ところが、100万人当たりの検査数が10万人を超えているシンガポールでは致死率が0.07%です。欧米の5~15%の致死率の100分の1のレベルなのです。

恐らく東アジアにおけるコロナ致死率は0.1%未満であると推察されます。この水準ならば過剰な行動抑制は不要ということになります。その一方で欧米の致死率は5~15%という現実が存在します。

東アジアの人々が何らかの免疫力を保持しているのか、それとも、たまたま東アジアでは強毒性ウイルス感染が流行しなかったのか、のいずれかの要因が想定されます。前者であれば東アジアは重大な被害を免れることになりますが、後者だとすると今後の強毒性ウイルスの感染拡大に警戒を払う必要が生じます。

他方、致死率の高い米国で感染が再拡大する気配が示されています。また、冬期に移行した南米で感染が急激に拡大しています。このため、コロナによる経済圧迫が長期化、深刻化する懸念が拡大しているのです。

●コロナ禍はすぐには消えない

6月5日発表の5月米雇用統計で雇用者数が251万人も増加して米国経済楽観論が広がりましたが、6月10日FOMC(連邦公開市場委員会)が冷水を浴びせることになりました。FOMCのすべてのメンバーが2021年末のFFレートがゼロ水準に留まるとの見通しを示したのです。

6月25日にはIMF(国際通貨基金)が世界経済見通しを改定しました。4月時点の見通しを大幅下方修正しました。20年の米国経済成長率見通しは2.1%ポイントも下方修正されて-8.0%となりました。世界経済全体は-4.9%成長見通しで「大恐慌以来の景気悪化」と表現されました。

米国では行動抑制を緩和した州で感染再拡大が確認されていて、再び行動抑制措置が強化される可能性が高まっています。日本でも5月25日に緊急事態宣言が全面的に解除され、「東京アラート」も6月11日に取りやめとなり、6月19日には営業自粛要請も全面的に解除されましたが、これらを背景に東京都の新規感染者数の増加傾向が観察され始めています。東アジアのコロナ致死率が低水準で推移するなら大問題になりませんが、警戒を要する動きが観察されていることを見落とすことはできません。

IMFは翌26日に国際金融安定性報告を発表し、「資産価格が実体経済と比べて過大評価されている可能性がある」と指摘しました。株価が実体経済と比較して過大に評価されているとの見解を示したのです。世界的な量的金融緩和政策によって行き場を失ったマネーが株式市場に流入していると考えられますが、ファンダメンタルズに裏打ちされていない株価には強い脆弱性があるので注意が必要になります。

●株価はどう変動するのか

トランプ米大統領にとっての最優先課題は大統領再選であり続けています。この目的に向けて経済拡張と株価上昇だけが追求されてきたと言って過言ではありません。しかし、その経済と株価が急変しているため、トランプ大統領は焦燥感を募らせています。3月に策定した2兆ドル経済対策は電光石火のスピードで議会通過を実現しましたが、追加的な1兆ドル経済対策の策定が進められているようです。

対策が成立すれば株式市場は反応すると思われますが、巨大経済対策は政府債務増大という代償を伴います。無制限、無尽蔵に発出し続けられる施策ではありません。民主党が支配権を握る下院が手放しで大統領提案を容認する保証もありません。米国の経済政策策定が大統領選挙と絡んで複雑な動きを示す可能性もあります。

株式市場はどのような値動きを示すことになるのか。株価下落は株式を安く購入できるチャンスを提供するものでもあります。筆者が提供する会員制レポートでは具体的な株価変動について踏み込んだ予測を示してきましたが、これまでの予測パフォーマンスは驚異的に優れていると言って良いと思います。

投資手法が多様化している現在の金融市場では、いかなる金融環境においても利益を獲得できるツールが完全に備えられています。そのツールを生かせるのかどうかは、経済金融情勢を分析して市場動向を読み抜く洞察力にかかっていると言えるでしょう。チャンスを生かすも生かさぬもその力にかかっていることを認識することが求められています。

(2020年6月26日記/次回は7月11日配信予定)

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