キー局最後発
ネットワーク数最少
視聴率最低
企業規模最小
民放キー5局の中では、かつて「番外地」と揶揄されていたテレビ東京が、来春就職組の人気ランキングで、NHKや他の民放全社を抑えて業界トップに立った。
いわば“周回遅れのランナーが、いきなり首位”になったようなものだ。
実は同局には、経営論・組織論・番組論的にみて、一歩先を行く長所が多々ある。
学生がどこまで見抜いて選択したかはさておき、今回の評価には一定の実態が伴う。
“周回遅れ”の実態
テレ東はもともと、日本科学技術振興財団のテレビ事業本部が立ち上げた。
1964年の開局で、NHKや日本テレビの開局から遅れること11年、現在のキー5局の中では最後発だった。
ところが科学技術教育番組が過半だった同局の経営は、直ぐに行き詰まった。
そして幾つかの合併話を経て、69年に日本経済新聞が財界からの要請を受けて経営を引き受けた。73年には「東京12チャンネル」となり、81年に「テレビ東京」と名乗るようになった。
その後91年までに、テレビ大阪・テレビ愛知・テレビせとうち・テレビ北海道・TVQ九州放送とネットワークを組むようになったが、6局体制は民放5系列の中で断トツの最少だ。
2019年度のG帯(夜7~10時)における個人視聴率は3.4%。
7.2%だったトップ日テレの半分にも満たない。さらに民放4位のフジテレビにも1.6%と大差を付けられた。実は開局以来、視聴率も一貫して最低なのである。
そして経営規模。
2019年度のテレ東単体の売上高は1114億円。トップを行く日テレが3073億円なので、3分の1ほどしかない。キー5局の中では、企業規模も最小なのである。
自己評価と学生評価のギャップ
ところがそのテレ東が、来春就職組の希望先人気ランキングで、業界のトップに立ってしまった。
企業の採用などを支援するワークス・ジャパンが、大学・大学院を来春卒業予定の学生に、就職希望先を聞いたところ、テレ東京が全体の51位で業界1位。61位のNHK(業界2位)にかなり水を開けた。
有効回答者数12,504人。昨年の圏外からの急浮上は、必ずしもフロックではない。
ところがテレ東職員に聞いてみると、「意外!」と受け止める人が大半だ。
「僕もニュースで知り、へーと驚きました」
「光栄ですが、びっくりとしか言いようがありません」
「ショックでした。うちが上がったというより、他局が落ちただけなのでは・・・」
どうやら、同局職員の自社評価はあまり高くないようだ。
ただし学生たちの受け止めは異なる。筆者は先日、授業でテレ東のイメージを、学生にたまたま聞いていた。
「視聴率は低いかもしれないが、番組制作に独自性が感じられ、各番組に根強いファンがいる」
「番組も他局よりも落ち着いていて、どちらかと言えば誠意がある」
「自分の作りたい物を作っているという点は他にない特徴。作り手冥利に尽きるのではないだろうか」
「これから先、伸びてくる可能性のあるキー局と考える」
テレ東職員の中には、「学生がどこまでわかっているのか?」と懐疑的な人もいたが、若者は若者なりに本質を見抜く力を持っていると筆者は感じる。
就職ランキング1位の実力
実はテレ東は、6年前の開局50周年の時に「まっすぐ、ずっと。」をキャッチコピーに定めた。
不得意な分野より、個々の職場でナンバーワンになれる領域、つまり「得意分野により集中しよう」と全社的に確認を行なっていたのである。
こうして他局の真似で視聴率を上げるより、際立つオリジナリティが評価される社内のムードが醸成された。いわゆる“とんがったコンテンツ”が、営業的にも編成されやすい土壌が出来たのである。
その象徴的なエピソードが、“保険を掛けた番組”の否定だ。
2018年1月2日に放送されたNHKの『新春テレビ放談』に出演した伊藤隆行プロデューサーは、番組の提案会議でよく出る“企画の保険”が危ないと主張した。視聴率を確保するための方策があれこれ求められるが、「企画自体が丸くなってしまう」「似たような番組が多くなる」と言うのである。
実は伊藤Pが手掛けた『池の水ぜんぶ抜く大作戦』は、“保険”を求める編成の反対を押し切って制作した番組だった。
結果として、同番組は傑出した。月一のレギュラーにもなった。ハイリスクゆえに、ハイリターンを得られた典型と言えよう。
それまでにも同局では、『Youはなにしに日本へ?』『家、ついて行ってイイですか?』『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』などのヒット番組が生まれている。
例えば『充電』に対しては、10代20代が「YouTubeっぽい」と評価している。
バイクを止めて充電しているシーンでは、複数台のカメラを使いながらも、必ずしも被写体が真ん中で捉えられていない。しかも照明が追い切れていないシーンが続出する。
ここに若い視聴者は「ガチ」を感じるようだ。
『You~』も、成田空港で片っ端から声をかけた40人のうち1人が放送になるか否かという効率の悪さだ。
ただしこの手法を貫くことで、やらせや過剰演出が排除されている。
「番組の冒頭でわざわざ『台本は一切ありません』と断らないと、映像表現が整い過ぎてリアル感が担保できない某リアリティショーの対極」と胸を張る職員もいた。
「まっすぐ、ずっと。」という愚直に制作する姿勢は、一定の評価を確かに伴うようになっていた。
周回遅れからトップへ
同局の姿勢は、組織論的にもプラス効果を生み始めていた。
保険がないままオリジナリティにこだわる姿勢は、社内は元より、外部の制作プロダクション・タレント事務所・広告代理店・スポンサーに対しても、各現場に説明責任が発生するからだ。
この結果、職員の主体性も各段に増した。「捏造や無理な表現が無い分、BPOの審議対象となる番組が殆ど無くなった」という一面もある。
さらに番組論・組織論以外でも、経営的にも波及効果が出ている。
放送収入に対して、テレビ局によくある不動産収入以外の放送外収益のシェア拡大につながったのである。
実はテレビ東京は、かなり前から放送事業だけでは赤字だった。
キー局最後発・ネットワークス最少・視聴率最低・経営規模最小。こうしたマイナスは、放送事業としてはとても厳しい条件だった。
ところが早くから同局は、アニメ・経済・特定スポーツなど、他のキー局があまり手を出さない分野で番組開発を続け、やがてライツビジネスで花開くようになった。
まず『ポケモン』『ナルト』などが、世界で大きな売り上げを作った。さらに深夜ドラマも、中国でのネット配信などで稼ぐようになる。GP帯のバラエティも、視聴率こそ大きな数字をとらないが、高いオリジナリティゆえに番組販売などで利益を出すようになった。
つまり、他局と逆を行くオリジナリティが、デジタル時代にお金を稼ぐようになった。こうして今のテレ東は、放送で赤字でも会社全体では黒字を維持できるようになっている。
19年度の決算を概観すると、放送事業のコストは約590億円。
そこに共通・間接費を加えると870億円。放送収入は812億円なので、このままでは赤字だ。
ところが全売り上げの約27%を占めるライツ事業の営業利益が100億円以上あるので、テレ東単体の営業利益50億円ほどが保たれている。
民宿の底力
業界で働く私の知人は、民放5系列を宿泊業に例えてこう言う。
TBSは老舗ホテル
日テレは名門旅館
フジは外資系ホテル
テレ朝はペンション
そしてテレ東は民宿なのだという。各社の歴史や社風を言い得て妙な表現と筆者も納得する。
そもそもテレ東の経営層は、新聞出身の役員が多い硬い会社だ。
ところが制作現場の表現の自由は、他局と比べ比較的担保されていると感ずる。マイナスのカードを集めて大逆転させる“民宿の自由度と判断の柔軟性”だろう。
大学生が全てを理解しているとは思えないが、放送から滲み出る雰囲気を嗅ぎ分ける嗅覚は正しそうだ。
ただし今後を考えると楽観は許されない。
コロナ禍で、テレビ局の広告収入は未曾有の減収が避けられない。その逆風をどう新たなプラスに転じられるか。
民宿・テレ東のもう一段の底力に期待したい。
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June 07, 2020 at 03:07PM
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