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東出昌大が激論の果てに見た「三島由紀夫vs東大全共闘」 - シネマトゥデイ

『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』のナレーションを務める東出昌大
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』のナレーションを務める東出昌大 - (C)依田佳子

 作家・三島由紀夫が自決する1年前の1969年5月13日、東京大学駒場キャンパス900番教室で行われた伝説の討論会を捉えたドキュメンタリー映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』(3月20日公開)。本作のナレーションを務める俳優の東出昌大がインタビューに応じ、思わぬ展開を見せた三島と東大全共闘との討論についての感想や、三島の印象などについて語った。

『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』予告編

 TBSが映像を保管していたこの討論会には、天皇主義者の三島を「論破して立ち往生させ、舞台の上で切腹させる」と息巻く東大全共闘のメンバーをはじめ、1,000人を超える学生たちが詰めかけた。映画は、「七人の敵あり 三島の決意表明」「対決」「三島と天皇」「熱情」の4章から成り、討論会の映像と、これを振り返る13人のインタビュー映像を交互に映し出す。インタビューの対象には、元東大全共闘のメンバーで東大髄一の論客とされた芥正彦、討論会の主催者で司会も務めた木村修橋爪大三郎、そして三島由紀夫が結成した民間防衛組織「楯の会」の元メンバーも含まれている。

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東出と三島作品の出会い

 ナレーションを務める東出は、かねてから三島作品の愛読者で2018年には三島の長編小説「豊饒の海」を原作とした舞台に出演。三島作品との出会いについて「大学生の頃だったと思いますが、おそらく、初めて読んだのは『金閣寺』です。当時、夏目漱石だったら『吾輩は猫である』、芥川龍之介だったら『鼻』といったように、文豪たちの代表作と言われる作品から手に取ったのですが、『金閣寺』はその中でも特に難解だと感じました。人間の挫折や悩みがとても鮮烈に描かれていて、読み始めてから今までに何度か読んで、感じ方も変わりました。そこからどっぷり三島作品を読み始めました」

討論会で見えてくる三島の意外な顔

三島由紀夫
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』より(C) 2020映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会 (C) SHINCHOSHA

 討論会では、三島由紀夫が血気盛んな学生たちとさまざまなテーマについて激論を交わす様子が収められているが、ツワモノぞろいの学生の中でもとりわけ強烈な印象を放つのが、片手に赤ん坊を抱え、もう片方にたばこを手にした芥正彦。芥は「三島さんは敗退してしまった」と迫り、長きにわたる舌戦が展開されるが、東出は芥が放った「解放区」(※革命勢力が国家権力の統制を排除して支配する地区)という言葉に着目した。

三島由紀夫
芥正彦と三島由紀夫 (C) 2020映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会 (C) SHINCHOSHA

 「常識から切り離されたところに解放がある、という論旨があまりにも前衛的で。政治的なことだけではなくて、芸術分野や美に関しても真っ向から討論しようとする三島さんはすごいと思いましたし、彼の懐の広さも伝わってきます。また、芥さんのインタビュー映像の中で、彼が今もなお三島さんを対等に捉えているのがわかるのですが、三島さんに対しての思いというのは、こういう機会がなければ目にすることはなかったと思うので面白かったです」

 本来、張り詰めた空気になるはずの討論会だが、意外なのが三島が絶えず笑顔を見せていたこと。敵対関係にあった三島と学生たちだが、体制派、反体制派、と単純に分けられる関係ではないことがわかってくる。三島はある意味では彼らと共闘できるとも言い、討論では終始対等に会話する姿勢を貫いていた。三島のそんな柔軟さは冒頭からも垣間見える。

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東出昌大
(C)依田佳子

 単身、900番教室に乗り込んだ三島は、冒頭の挨拶代わりの演説で「仄聞(そくぶん)しますところによりますと、これは何か100円以上のカンパを出して集まっているそうですが、わたしは謀らずも諸君のカンパの資金集めに協力していることになる。わたしはこういうような政治的な状況は好きではない。できればそのカンパの半分をもらっていって、わたくしがやっている『楯の会』の資金に取っておきたい」とウイットに富んだ発言も。司会者の木村が「戦後知識人の問題としてさっき『三島先生』が……」「三島さんが……ここで『先生』という言葉を思わず使っちゃったのですが」とポロリとこぼす微笑ましい場面もあった。

 東出は、笑顔を見せた三島をこう分析する。「三島さんはリラックスしていたんじゃないかと思います。会場のムードはリンチの雲行きだったけれども、青年たちの目を見るとギラギラしている。そんな彼らから国を憂い、大衆を思う気持ちを見て取ったのではないかと。途中、芥さんとタバコを分け合う場面もありましたし、ポーズではなく本当に楽しんでいらっしゃる印象を受けました」

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印象的だった三島の言葉

東出昌大
(C)依田佳子

 東出にとって討論会の中で特に強く残っているのが、三島が最後に学生たちに向けて放った「君たちの熱情は信じる」という言葉だった。「三島さんは壇上で学生たちの目を見た瞬間に『熱情は信じる』と言っていましたよね。それは、討論が終わったから言ったことではないと思うんです。何を言っても届かないときもありますが、その言葉に嘘はなかったのではないかと思います」

 そもそも「討論」という言葉に難解な印象を持つ人もいるかもしれないが、果たして三島を知らない者にこの映画は伝わるのか。「まず、『難しくない』ということを伝えたいです。知の頂上決戦のような討論なのですが、映画を見終えた後に痺れるような熱情を全身に浴びると思います。一言一句がわからなくても、その熱情に感化されれば作品は成功している、と思います。三島ファンでなくても、この時代を生きた方でなくても。若い方はノーガードで来ていただければ必ず熱情を必ず持って帰っていただけると思います。それが映画のロマンだとも思います」(編集部・石井百合子)

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March 15, 2020 at 07:15AM
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